相続登記をしていない場合は、正しい所有者を登記簿に反映させる手続きをとる必要があります。
令和6年4月から義務化が始まったため、罰則の対象にならないよう、速やかに手続きしましょう。このページでは、全体の大まかな流れをご説明します。
執筆者 塩谷 陽子(しおや ようこ)
つなぐ司法書士事務所 代表司法書士
信託・相続・登記を専門とする、つなぐ司法書士事務所(所在地:横浜市旭区)の代表。大学卒業後、都内のコンサル会社で複数のプロジェクトを経験し、2016年に司法書士試験に合格。都内司法書士法人で不動産、相続、後見、企業法務などを多数経験し、2023年に独立。女性ならではの丁寧・親身な対応で多数の顧客から支持されている。
1. 亡くなった方が所有していた不動産を調べる
亡くなった方がどのような不動産を所有していたかは、市役所などで「名寄帳」を取得するほか、毎年5~6月頃に届く固定資産税・都市計画税の「納税通知書」や「課税明細書」で、確認できます。
そして、登記手続きを行うためには、現在の対象となる不動産の登記簿を確認する必要があります。
登記簿の内容は、最寄りの法務局で土地や建物の「全部事項証明書」を取得して、現在の名義人や不動産の情報を知ることができます。
取得する必要書類(すべて各1通) | 取得できる場所 |
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①「名寄帳」または「固定資産税課税台帳の写し」 ※自宅に固定資産税・都市計画税の「納税通知書」もしくは「課税明細書」があれば、それで確認可能 | 不動産がある市区町村役場 |
②不動産の「全部事項証明書(亡くなった方が所有するもの全て)」 | 全国の法務局 |
2. 対象となる不動産を管轄する法務局を調べる
登記申請の手続きは、不動産が所在する場所を管轄する法務局(管轄法務局といいます)で行います。
管轄法務局は、各法務局のホームページで調べることができます。不明な場合は、最寄りの法務局に電話して問い合わせると良いでしょう。
間違った法務局に申請してしまうと、却下や取り下げの手続きが必要となり、再度法務局に訪問することなってしまいます! 面倒ではありますが、必ず確認しましょう。
必ずしも、亡くなった方の住所地にある法務局ではないので、ご注意ください。
3. 必要な書類を集める
一般的には以下の書類が必要書類となりますが、相続する方法(遺産分割協議、遺言書等)によっても提出する書類が変わってきますので、管轄の法務局か、司法書士に相談しましょう。
- 亡くなった方の生まれてから死亡するまでの全ての戸籍全部事項証明書・改製原戸籍・除籍謄本
- 亡くなった方の住民票の除票
- 相続人全員の戸籍全部事項証明書(現在の戸籍のみ)
- その不動産を相続する相続人の住民票
- 【遺言で相続する場合】遺言書(原本)
- 【遺産分割協議で相続する場合】遺産分割協議書(原本)
- 【遺産分割協議で相続する場合】印鑑証明書(相続人全員のもの)
住民票は「本籍地が記載されている」かつ「マイナンバーの記載がないもの」を取得するようにしましょう!
特にマイナンバーが記載されていると、法務局が受理してくれないため、もう一度取り直すことになるので注意が必要です!
4. 登録免許税を計算する
登記申請手続きには、原則「登録免許税」という税金(国税)が課されます。
登録免許税は、次の計算式で求めることができます。
「登録免許税額」 = 「課税価格」 × 「登録免許税率(4/1,000)」
※ただし、登録免許税額の100円未満は切り捨て。
ここでいう「課税価格」とは、原則「固定資産税評価額」を指します。
「1. 亡くなった方が所有していた不動産を調べる」で確認した課税明細書や、名寄帳に記載されている固定資産税評価額に記載された額の1,000円未満を切り捨てた額が「課税価格」となります。
なお、一通の申請書で複数の不動産の登記申請をする場合は、各不動産の評価額を合計し、その合算した額の1,000円未満を切り捨てた額が課税価格となります。
例えば、固定資産税評価額1,235,990円の土地の場合は、次のように計算します。
1,235,000円(1,000円未満切り捨て)×4/1,000=4,940円(登録免許税は、4,900円(100円未満切り捨て)
固定資産税評価額が1,000円に満たない場合や、非課税土地のため評価額がない場合であっても、登記申請時には一定のルールに基づいて課税されます。
また、租税特別措置法などにより、土地の相続登記について登録免許税がかからない場合もあります。こういった場合は、申請する法務局や司法書士に相談しましょう。
5. 登記申請書を作成する
登記申請書は、①登記の目的、②登記の原因、③相続人、④添付情報、⑤法務局への要望事項、⑥申請日・提出先、⑦課税価格、⑧登録免許税、⑨不動産の表示を記載します。
具体的には、法務局が通知しているひな形を見本に作成していくことになります。
- 申請書はA4の用紙を使用する。
紙質は長期間保存できる丈夫なもの(上質紙など)が望ましい。 - 文字は、手書きでもパソコン入力でもOK。
手書きの場合、黒色インクのもので記入すること。摩擦などにより消えるペンや鉛筆は不可。 - 申請書が複数枚にわたる場合は「契印」が必要。
6. 相続関係説明図を作成する
相続登記手続きにおいて、添付書類として、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍関係書類と、相続人の戸籍全部事項証明書を提出しなければなりません。
その際に、被相続人とその法定相続人の関係がわかる「相続関係説明図」という書類を作成し、戸籍見解書類の原本と同時に提出すると、登記完了時に戸籍関係書類を返却してもらうことができます。
戸籍関係書類は、別の相続手続きにも利用できるため、できるだけ還付しておいた方が良いでしょう。
仮に、原本の返却を求めない場合は、相続関係説明図の作成は必要ありません。あくまで返却を求める場合のみ必要となる書類です。
「相続関係説明図」は、いってみれば家系図のようなものになります。
亡くなった方(被相続人)の氏名・本籍地・登記簿上の住所・最後の住所・生年月日・死亡年月日、相続人の氏名・続き柄・生年月日などを記載することで、戸籍を読み取る代わりに、亡くなった方の相続関係が一目瞭然でわかる書類となります。
不動産を誰が相続したかを明確にするため、不動産を相続する人には「相続人」と記載し、相続しない人には「分割」と記載するのが通例です。
7. 法務局へ書類を提出する(登記を申請する)
いよいよ、法務局へ作成した書類や必要書類を提出する「登記申請」を行います。
提出する法務局は、「2. 対象となる不動産を管轄する法務局を調べる」で調べた不動産の所在する場所を管轄する法務局です。
登記申請は「登記申請書類一式」「原本類」「返信用封筒」を直接法務局へ持参するか、郵送で申請する方法が簡単です。
郵送する場合は、書類一式を入れた封筒に、管轄法務局の宛先のほか「不動産登記申請書在中」と記載の上、書留郵便(レターパックプラスでも可。レターパックライトは不可なので注意※)により郵送します。
登記申請書のつづり方は、厳密な決まりはありません。①登記申請書・②登録免許税の印紙貼付した用紙、③相続関係説明図、④原本還付を求める書類のコピー(「原本に相違ない」と記載し署名・押印したもの&複数枚ある場合は、「契印」が必要。)の順番でホチキス止めしたものであれば、問題ありません。
8. 登記完了(登記識別情報通知の発行)
登記を申請し、何も問題なければ、早くて1週間~2週間程度で登記が完了します。
登記が完了すると、法務局から「登記識別情報通知」という書類が発行されます。「登記識別情報通知」とは、いわゆる「不動産権利証」にあたるもので、この書類を所持していることが不動産名義人である証明ともなる重要な書類となります。紛失しないよう、大切な書類として保管してください。
「登記識別情報通知」は、不動産ごとかつ登記名義人ごとに交付されます。一般的にA4の書類に、アラビア数字その他の符号の組み合わせからなる12桁のパスワードが記載されており、その部分には目隠し用のシールが貼ってあります。この12桁のパスワードが書き写されたりすると、権利証の盗難にあったのと同じ意味を持ちますので、このシールは剥がさずに、保管しておくことをお勧めします。
登記申請書に不備があった場合
「補正」とは、登記申請後、登記申請書の記載に誤りがあったり、添付情報の一部に不足などがあった場合、登記官は申請人に電話で、不備を修正するように連絡があります。
この登記官の指示にしたがって不備を修正することを「補正」といいます。補正をしないと登記は完了しないため、迅速に対応するようにしましょう。