【相続放棄】期間は3か月! 期間の伸長や、期間が過ぎてしまった場合の対処法について司法書士が解説

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執筆者 塩谷 陽子(しおや ようこ)
 つなぐ司法書士事務所 代表司法書士

信託・相続・登記を専門とする、つなぐ司法書士事務所(所在地:横浜市旭区)の代表。大学卒業後、都内のコンサル会社で複数のプロジェクトを経験し、2016年に司法書士試験に合格。都内司法書士法人で不動産、相続、後見、企業法務などを多数経験し、2023年に独立。女性ならではの丁寧・親身な対応で多数の顧客から支持されている。

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相続放棄の期間は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月とされています。この短期間に正しい手続きを完了するのは難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。

期限が迫ってきたときの焦り、期間を過ぎてしまった際の不安…このような悩みにお答えするため、この記事では「相続放棄の期間のカウント開始」から「期間内に間に合わせる方法」、さらに「期間を過ぎた場合の対処法」まで、総合的に解説します。

また、「間違って相続放棄ができなくなる危険な行動」についても触れています。今回の記事を通じて、あなたの悩みを一つ一つ解消していきましょう。

目次

相続放棄の期間は、相続の開始を知ってから3か月

相続放棄の期間は「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」と定められています(民法915条)。

具体的には、被相続人が亡くなったことを知った時点からカウントが始まります。

この3か月の期間は、法律の中では「熟慮期間」と呼ばれており、相続するか、放棄をするかの決断をするための期間です。相続を決めた場合、特別な宣言は不要ですが、放棄する場合は家庭裁判所への手続きが必要となり、この手続きを「相続放棄申述」と言います。

相続放棄の期間はいつからカウントする?

では「自己のために相続の開始があったことを知ったときから」とは、具体的にはどの時点を指すのでしょうか?

原則として、①相続開始の原因事実の発生を知り、②そのために自己が相続人となったことを知覚した時とされています。具体的なケースをみていきましょう。

ケース① 亡くなった方の臨終に立ち会っている。亡くなった日に通知がきたケース

亡くなった方の配偶者や子供のような近しい関係者の場合、その死をすぐに知ることが一般的です。

また、自分が相続人であることを知覚していることがほとんどです。

従って、大抵の場合は被相続人が亡くなった日」から、3か月の熟慮期間がスタートします。

ケース② 後日、親戚などから連絡が来て、亡くなったことを知ったケース

疎遠になっている家族や遠い親戚の場合、被相続人の死を知るのが遅くなることがあります。

この場合、実際に「被相続人が亡くなったことを知った日」から、3か月の期間が始まります。

ケース③ 債権者(金融機関など)や役所からの書面(手紙)で、亡くなったことを知ったケース

亡くなった方がしていた借金などの債権者や役所からの書面(多くは手紙が届きます)で、その事実を知った場合はその通知を受取った日」から、熟慮期間が開始します。

ケース④ 当初の相続人が相続放棄をして、自分が相続人となったケース

ある相続人が相続放棄をすると、次の相続人へと相続権が移ることがあります。

この場合、次の相続人の相続放棄の期間も3か月ですが、基準となるのは「先順位の相続人が相続放棄したことを知った日」からとなります。

この相続開始を知った日は、相続人それぞれのケースによって異なります。よって相続放棄の熟慮期間は、各相続人毎に進行することになります。(最高裁昭和51年7月1日判決・家庭裁判月報29巻2号91頁を参照)。

このように、「いつ知ったのか?」というのは、相続放棄でとても大切な情報となります。
よって、それを裁判所などに証明するためにも通知を受けた日付(電話の履歴)や、手紙の封筒に記載がある消印などの証拠となるものは必ず残しておくようにしましょう。

期限が迫っている場合どうすればいい?

親しい方が亡くなると葬儀や死亡届など手続ばかりでバタバタと過ごし、次は相続について考えないといけない。悲しみに浸る時間もありませんよね。

しかし、原則この3か月という期間は絶対であり、守らないといけません。現実的に3か月の間に相続財産調査を行って、相続放棄をするかどうかを決めて、家庭裁判所に申立てを行うのは、かなり時間的に短く、実際のところ3か月を経過してしまうケースはたくさんあります。

特に、兄弟が亡くなった場合や、疎遠にしていた方が亡くなった場合は、相続財産の調査や相続人の調査(戸籍の収集)が期限内に終わらないケースもあります。このような場合は、どうすればいいのでしょうか?

書類をとりあえず提出する

期限が迫っている場合の最優先事項は、家庭裁判所への書類提出です。

相続放棄を行う場合、必要となる書類は、主に次の5点です。

  • 相続放棄申述書
  • 被相続人の住民票除票または戸籍謄本の附票
  • 相続放棄を申し立てる人の戸籍謄本
  • 収入印紙
  • 連絡用郵便切手


そして、上記全ての準備が間に合わない場合は、まずは「相続放棄申述書」の提出を優先させましょう。

戸籍など他の書類がすぐに用意できない場合でも、相続放棄申述書だけは期限内に提出し、残りの書類は、後日家庭裁判所に提出する旨を伝えれば、期限内の手続きとして進めてもらえます。

3か月の熟慮期間伸長の申し立てをする

相続財産が非常に多くその調査に時間がかかる場合など、期限内に相続放棄をするかどうか判断できないなどで相続放棄申述書の提出が難しい場合、または更なる時間が必要であると感じる場合、3か月の熟慮期間の延長を家庭裁判所に申し立てることも選択肢として考えられます。

この期間延長は、相続開始を知った日から3か月以内に行う必要があります。期間が経過していた場合は、延長はできません。

期間を伸ばしてもらうためには、家庭裁判所に対して、熟慮期間内に期間伸長の申立てを行う必要があります。
家庭裁判所に対する期間伸長の申立てをせずに、自動で3か月の期間が伸びることはありません。

熟慮期間伸長の申し立ての手続き

伸長する場合の手続きは、以下の通りです。

項目内容
申立人・相続人本人
・利害関係人(亡くなった方の債権者、受遺者など)
・検察官(検察官が手続きをしてくれることは、ほとんどありません。)
申立先亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
※申立する人の住所地ではないので、ご注意ください。
申立期限相続人の方が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内
※申立をすればよく、3か月が経過する前に審判を得る必要までありません。
費用・収入印紙800円分(相続人1人につき)
・連絡用の郵便切手(家庭裁判所ごとに料金が異なります。詳細は家庭裁判所にご確認ください)
必要書類・申立書(書式はこちら
・亡くなった方の住民票除票または、戸籍の附票
・伸長を求める相続人の戸籍謄本
・亡くなった方の死亡の記載のある戸籍謄本
・その他必要書類(こちらをご確認ください。)

熟慮期間伸長の申し立ての注意点

期間伸長の申立ては、必ずしも認められない!

伸長の申立てをしたからといって、家庭裁判所が必ず認めてくれるわけではありません。一般的には、通常の努力を尽くしても熟慮期間内に決断することが難しいと認められる場合に受理されます。

例えば「相続財産の中身が全国に点在しており、調査に時間がかかる」や「亡くなった方とは疎遠で、財産関係を全く把握していない」、「相続人が海外に住んでいて、調査するために時間を要する」などの事情がある場合です。ただ単に「忘れていたので伸長してください」は通じないので注意が必要です。

認められる場合の審査基準として、次の判例の内容にある要素を考慮して家庭裁判所は伸長するか否か、またその期間を決定します。

相続財産の構成の複雑性、所在地、相続人の海外や遠隔地所在などの状況のみならず、相続財産の積極、消極財産の存在、限定承認をするについての共同相続人全員の協議期間並びに財産目録の調製期間などを考慮して審理するを要する

大阪高決昭和50年6月25日

伸長できる期間の長さや回数に特に制限はありません。結果として1年以上熟慮期間を伸長することが認められた事案も存在します。

期間伸長の申立ては、余裕をもって早めに行う!

家庭裁判所が期間伸長を認めるかどうかを判断する期間は、一般的に1~2週間程度となっています。

熟慮期間直前に伸長の申立てをした場合、万が一、申立てが認められない場合は、相続放棄の手続き自体できなくなってしまいます。期間伸長の申立ては、スケジュールに余裕をもって早めに行いましょう。

3か月の期間が過ぎてしまっている場合

原則、相続放棄は不可。相続したものとみなされる!

3か月の期間を過ぎると、原則として相続放棄の手続きはできません。

この期間を経過すると法律で、「相続を承認したものとみなされて」しまい、亡くなった方のプラスの財産とマイナスの財産をすべての権利義務を無条件に相続することになります。(民法921条2号)

亡くなった方の債権者から取立てをされている場合などは、その債務につき返済義務が発生します。

期間が過ぎても相続放棄が可能なケース

前述のとおり、原則は3か月を過ぎた場合は相続放棄はできませんが、例外的にこの期間を過ぎた場合でも認められる場合があります。それは特別な事情がある場合です。

こんなに借金があるなんて知らなかったという相続人のイラスト

特別な事情として、相続開始の原因事実の発生を知り、そのために自己が相続人になったことを認識していたとしても、相続財産に含まれる債務(借金)の存在を知らなかった場合、熟慮期間の起算点を繰り下げる余地を認めた事例があります。

たとえば、亡くなってから約1年後に保証債務の存在を知ったというケースで、保証債務の存在を知った時から3か月以内になされた相続放棄が有効であると示した判例があります。(最判昭和59.4.27民集38巻6号698頁)

この判例では、相続が開始されたこと、そのために自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に相続放棄しなかったのが「相続財産が全く存在しないと信じたため」であり、かつ亡くなった方の生活の状況や、その方と相続人との交際状態、その他諸般の状況からみて相続人に対して相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難であり、相続人についてそのように信じることに相当な理由があった場合に認められるとしています。

たとえば、幼いころに離婚した父親と長い間音信不通だった場合、父親の生活状況や財産などを全く把握しておらず、財産調査も容易でなかったなどのケースは、金融機関などから借金の通知書を受けてから3か月以内に相続放棄をすることが認められる可能性があります。

先ほどのケースは「財産が全く存在しないこと」を条件としていましたが、他の裁判例を見ると、財産の一部の認識はあっても、熟慮期間が経過した後になって、まったく予想していなかった高額の債務があることが判明したケースにおいて、熟慮期間の起算点を繰り下げる否かについては、裁判所での判断は分かれています。

一番避けなければならないのが、金融機関などから通知を受けたまま放置しておくこと。あくまで起算点が金融機関の通知を受けた日に繰り下がるのみで、そこから3か月以内に手続きをしなければならないのは同じだからです。

放置しておくと、結局相続放棄できなくなり、借金を支払わなければいけなくなってしまいます。そして、3か月を過ぎている場合は、裁判所になぜ期間内に相続放棄の申出ができなかったのか説明する必要があります。

また裁判例も分かれており、裁判所に納得してもらうだけの書類を作成する必要がありますので、こういった場合は相続放棄の専門家である司法書士や、弁護士に相談するようにしましょう。

【注意!】これをすると相続放棄ができなくなる! 

相続放棄の手続きを行う“に、亡くなった方の財産を処分(売買・家屋の取り壊し・物などを損壊したなど)したり、財産を隠蔽・消費したりした場合、法律上「相続したものとみなされる」という状態(法定単純承認)となり、相続放棄ができなくなってしまいます。

相続放棄“に相続財産を処分した場合
単純承認とみなされることはなく、相続財産に対する債権者に対して別途損害賠償責任を負うことになります。

この法定単純承認の背景には、相続財産の処分には、「『相続する』という相続人の意思が含まれていると推定されるのが自然」ということと、「処分を信頼した第三者(売買の相手など)を保護すべき」という価値観があります。

具体的に、どのような場合に「相続したもの」とみなされてしまうのでしょうか? 以下の具体例を見ていきましょう。

①財産価値のあるもの(宝石・骨董品)などを形見分けする→相続放棄できなくなる×

形見分けとは、故人の親族や親交のあった人へ遺品を贈り、思い出を分かち合うという、日本に伝わる風習とされていますが、財産価値のある物を形見分けすると、相続放棄ができなくなる可能性があります。

例えば過去の事例で、故人が着ていた古着や位牌、写真などは処分性がなく、法定単純承認にあたらないとされた事例があります。一方で宝石や高額な骨董品、絨毯、家財など経済的な価値があるものは、処分性を疑われて相続放棄できなくなる可能性があります。

形見分けにあたるかどうかについては、相続財産の全体の額や相続人などの財産状態、形見分けの性質など総合的に考慮して、その物が一般経済課価額を有するかどうかで判断されます。

②亡くなった方の債権を行使して、弁済を受けた場合→相続放棄できなくなる△

例えば亡くなった父親が自営業で、Bに対して売掛金として100万円の債権を有していた場合、亡くなった父親の息子が、勝手にBに対して債権の取り立てを行い、100万円を受け取って自分の財布に納めたようなケースは相続財産の処分にあたるとされ、相続放棄ができなくなります。

ただし、相続財産である債権を「相続財産の管理」として取り立て、あくまで相続財産として保管したような場合は、処分に当たらないことも有り得ますが、状況により判断されるため、相続放棄を検討している場合は、債権を回収しない方が得策といえるでしょう。

③亡くなった方が有していた株主権を行使した→相続放棄できなくなる×

例えば、亡くなった方の株主権を行使して「誰を取締役にするか?」という決議で株主権を行使した場合、遺産の管理にとどまらず、その積極的な運用という性格を有すべき(処分行為にあたる)とした判例があります。

特に、これは株主権を行使することにより、それを信頼した第三者(この場合は会社やその利害関係人)の保護を重視しているものといえます。

相続放棄を検討している場合は、株主権を行使しないように気を付けましょう。

④死亡保険金の受け取りと費消→保険契約によるので注意!△

保険金が「相続財産」に含まれるか否かは、当該保険の内容によりますが、保険金の受取人が相続人のある特定の者とされている場合は、死亡保険金は相続人の固有財産となり、相続財産となりません。よって、これを受け取り処分したとしても、単純承認とはみなされず、相続放棄ができます。

一方で、亡くなった方自身を受取人と指定していた場合は、保険金が相続財産に含まれるかどうかは見解が分かれています。しかし通説では、保険金請求権は、いったん亡くなった方に属し、相続財産として相続人に承継されるとして、相続人がその保険金を受領した場合は、単純承認にあたるとされています。

死亡保険金の受取人が、誰となっているのかをチェック!
相続人の場合

死亡保険金は相続人の固有財産となり、相続財産とならない。
→費消しても相続放棄できる!

亡くなった方の場合

通説では、相続財産として相続人に承継されるものとされる。
→費消した場合、相続放棄できなくなるので注意!

⑤相続財産の中から債務を弁済した→相続放棄できなくなる可能性が高い×

熟慮期間中に相続財産から相続債務を弁済することは、裁判例を見ると「相続財産の処分」にあたり相続放棄できなくなる可能性が高いといえます。

これは、通常熟慮期間中の相続財産管理を行う中で、債権者などから弁済の請求を受けた相続人は、弁済を拒絶できるとされています。それにも関わらず弁済をした場合は、一種の財産処分にあたるものとみなされてしまう可能性があります。

ただ、相続人の固有財産からの弁済(=亡くなった方の財産ではない、相続人自身の財産からの弁済)であれば、相続放棄の障害となることはありませんので、ご安心ください。

⑥相続財産の中から葬儀費用などを支払う→社会的に相当な額の範囲内であればOK

⑤のように、債務を相続財産の中から弁済することは原則NGとされていますが、葬儀費用(葬儀代・火葬費用・仏壇や墓石の購入・治療費の残額の支払も含む)を相続財産の中から支出することは、「相続財産の処分」に該当しないとされています。

これは、日本で葬儀は社会的儀式として必要性が高く、葬儀が行われることの方が一般的です。亡くなった方には財産があるのに、相続人に財産がないために通常行われるべき葬儀ができなくなる事態は非常識です。よってこのような点を踏まえて、葬儀費用の支出については「処分」にあたらないとされているのです。

ただし、社会的に相当な額の範囲内とされており、不当に高額な葬儀費用の場合は、相続財産の処分とされてしまう可能性もあるのでご注意ください。

⑦相続財産を隠した場合→相続放棄できなくなるNG×

相続放棄前に財産を隠す行為は、相続放棄ができなくなる行為です。例えば、借金を理由に相続放棄を考えているが、価値のある財産は欲しいと思い、現金や預金を隠した場合がこれにあたります。

具体的には、隠した遺産が相続放棄した後に明るみに出ると、相続放棄が無効と判断され、結果的に借金の返済を求められる可能性があります。

そして、財産というと現金や預金を思い浮かべるかもしれませんが、宝石や美術品、家具、衣服なども価値がある物として認識されます。これらのものを遺産の持ち主の家から勝手に持ち去る行為も、遺産を隠したと見なされることがあります。

相続放棄を検討している場合は、財産的価値がありそうなものすべてについて、何もせずにそのままの状態で置いておく方が良いでしょう。

まとめ

今回は「相続放棄の期間」について解説しました。

相続放棄の期間は3か月が原則であり、その期間が迫っている時や過ぎてしまった場合など、時間が経てば経つほど相続放棄が家庭裁判所で受理される可能性は低くなってしまいます。

親しい方が亡くなった時に、相続放棄などの手続きを考えることは難しいかもしれませんが、自身の財産を守るためにもできるだけ早く行動することが肝心です。

ただ、あまり急いで相続放棄を決断すると後悔することもあります。相続放棄には借金を放棄できるメリットもありますが、デメリットもあります。

相続放棄を短期間で検討しなければならない場合や、相続放棄や期間伸長の手続きを自身でやることが難しい場合は、司法書士や弁護士に相談するのも一つの手です。

多額の借金を背負うリスクがある方お困りの方は、どうか専門家にご相談ください。

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