執筆者 塩谷 陽子(しおや ようこ)
つなぐ司法書士事務所 代表司法書士
信託・相続・登記を専門とする、つなぐ司法書士事務所(所在地:横浜市旭区)の代表。大学卒業後、都内のコンサル会社で複数のプロジェクトを経験し、2016年に司法書士試験に合格。都内司法書士法人で不動産、相続、後見、企業法務などを多数経験し、2023年に独立。女性ならではの丁寧・親身な対応で多数の顧客から支持されている。
相続放棄はプラスの財産とマイナスの財産、全ての遺産についての承継を放棄する手続きです。
相続する財産に借金などがあったり、疎遠になった親戚の相続だったり。「本当に相続登記をしてよいのだろうか…」とお悩みの方や、相続放棄を検討されている方も多いのではないでしょうか?
相続放棄をすべきかどうか、この記事ではその判断基準となる「相続放棄のメリットとデメリット」を分かりやすく解説しています。
相続放棄は3か月という期間制限がある手続きであり、しかも一度したら撤回できません。この記事を参考に、慎重にご検討ください。
相続放棄とは?
相続放棄とは、亡くなった方が所持していたプラスの財産とマイナスの財産の全てを拒否することです。
ここで注意すべきは、マイナスの財産(借金・ローンなど)だけではなく、不動産や預貯金などのプラスの財産を承継する権利もなくなるという点です。
そして、相続放棄をした人は、相続手続き上では「初めから相続人ではなかった」ことになり、もっと簡単にいうと「亡くなった方とは赤の他人」と同じ立場になります。
相続放棄の概要 | |
相続放棄とは? | 亡くなった方が所持していたプラスの財産とマイナスの財産のすべてを拒否すること |
期限は? | 相続人が亡くなったことを知り、自身が相続人であることを知ってから3か月以内 |
手続きをする人 | 相続放棄をしたい相続人本人 |
手続きの場所 | 亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
相続放棄のメリット
相続放棄によるメリットは、次の2つです。
- 亡くなった方の借金の返済義務から解放される
- 遺産分割協議に関わらなくて済む
亡くなった方の借金の返済義務から解放される
相続放棄の一番のメリットは、亡くなった方が残した負債(カードローンなどの借金、未払い家賃)を相続せずに済むことです。
例えば、亡くなった方がサラ金やクレジットカードで借金していた場合、その負債は相続人が返済義務を負うことになります。
他にも未払い家賃の返済や、税金の滞納にはじまり、亡くなった方が起こした交通事故による被害者への損害賠償金の支払いや、亡くなった方が知らないところで誰かの連帯保証人となっていた場合も、そのリスクを負います。
特に、亡くなった方と生前にあまり交流がなく疎遠だった場合、亡くなった方がどういう生活をしていたか分からないため、どのくらいの負債があるのかも分かりません。自分が知らないところで多額の負債を抱えていて、いきなりその債権者から支払いの請求があることも珍しくありません。
このような状況やリスクを回避するために役立つのが「相続放棄」という制度です。相続放棄をすれば、初めから相続人ではなかったことになり、借金も相続せずに、その支払義務からも解放されます。
相続放棄をせずに、借金などの支払を放置すると大変危険です!
借金があるのに相続放棄をせず、ただ放置しているケースがありますが、これは大変危険です。
自分では相続したつもりがなくても、債権者から見れば相続人は立派な支払義務者です。借金の支払い督促や電話などがやってきたとき、それでも放置を続けていると債権者は裁判を起こし、あなたの財産が債権者から差し押えられる可能性がでてきます。
相続放棄は、自身が相続人であることを知ってから3か月以内にすることが必要です。3か月以内に相続放棄をしなければ、民法上「あなたはその相続をしたことを承認した」とみなされてしまいます。(民921条2項、単純承認)
当事務所のお客様も、債権者からの支払請求を無視し続け、最後には支払督促をかけられてから、慌ててご相談に来られる方もいらっしゃいますが、そこから相続放棄ができる可能性は残念ながら低いです。
借金のリスクが大きいのであれば絶対に放置せず、早期に相続放棄することを強くお勧めします。
遺産分割協議に関わらなくて済む
相続放棄のメリットの二番目は、遺産分割手続きに関わらずに済むという点です。
遺産分割手続きとは、相続人全員で亡くなった方の財産の分け方などを協議することで、遺言書が無い場合などに行われます。
簡単に言うと「亡くなった方の財産に関する相続人全員での話し合い」が遺産分割なのですが、相続人同士が仲が悪かったり、疎遠だったり、遠方に住んでいたりすると、その話し合いをすること自体が難しいこともあります。
また、身内同士だからこそ、意見が合わずにトラブルになることも多いです。トラブルが長引くと家庭裁判所での調停や審判なども必要となり、解決までに長期間かかることもあります。
また、相続には多くの煩雑な手続きが伴います。預貯金の解約・名義変更手続きや、相続税が発生する場合は相続税の支払い、不動産の相続をする場合は登記手続きなど、煩わしい手続きが沢山あります。
このような、人によっては非常に面倒なことを、相続放棄をすることで一切関わらず、解放されることになります。
相続放棄のデメリット
相続放棄は良いことだけではありません。以下の3つのデメリットがあります。
この3つを理解してから、慎重に相続放棄を検討するようにしましょう。
- プラスの財産を一切相続することはできない
- 相続放棄は撤回することができない
- 相続放棄をしたら、次の世代の相続人に相続権が移る
プラスの財産を一切相続することはできない
相続放棄をするとプラスの財産を一切相続できなくなることは、ご注意ください。
高額な財産はもちろん、ずっと大切にしていた土地や家、モノも手放す必要があります。
相続放棄をすることは、相続人でなくなります。「借金だけ相続放棄する方法」や「住んでいる家や土地だけ残す方法」は、存在しません。
相続放棄で損するケース
例えば父親が亡くなって、クレジットカードローンで100万円の借金があると分かったため、妻と息子が急いで相続放棄をしたケースを考えてみましょう。
実は妻の知らないところに300万円のタンス預金があった場合、借金100万円の支払いをしても200万円が残ります。
しかし、相続放棄をした場合、この300万円のタンス預金ももらえません。
きちんと財産調査をした上で、本当に損をしないのか確認してからにしましょう。
大切にしていた家や土地、モノも放棄することになります
高額な財産の他にも、特別な思い出があるモノや土地、家も全て手放すことになります。
例えば遺産の中に、父母が生前大切にしていた骨董品や宝石、先祖代々引き継いだ土地や家などがあったとします。こうした大切な財産であっても、相続放棄をすると一切承継できなくなります。
相続人の誰かが取得してくれれば、財産として守られることになりますが、相続人全員が相続放棄をしてしまった場合は、最終的には国のものになってしまいます。
相続放棄は撤回することができない
相続放棄は、一度してしまうと相続関係確定のため撤回できません。
先ほどの例で、後からタンス預金が出てきたなど「そんなに財産があると知っていたら相続放棄をしなかった…」と言っても、取り消すことはできません。
簡単に撤回や取り消しができてしまうと、いつまでも相続人が誰なのか確定しないため、債権者や利害関係者が困ってしまいます。
ただ、民法では相続放棄の取り消しの余地があることを示しており、以下のケースの場合のみ可能です。
・詐欺や強迫行為により、無理に相続放棄をさせられた場合
・未成年者が法定代理人の同意なしに、相続放棄をした場合
・成年被後見人が、自分一人で相続放棄をした場合
上記どれも特殊な場合であり、「気が変わったから…」という程度での取り消しは認められないので、慎重に検討する必要があります。
相続放棄をしたら、次の世代の相続人に相続権が移る
配偶者や子が相続放棄をすると、亡くなった方の親や兄弟姉妹、甥姪に相続権が移っていきます。よって多額の借金などがある場合は、これらの人にその支払い義務なども移っていくことになります。
これを知らずに相続放棄を進めると、後で親族関係にしこりを残すことになりかねません。
このような場合は、次順位の相続人などに自身が相続放棄した旨をきちんと連絡し、その方も相続放棄の手続きを行うなど、対応する必要があります。
相続放棄の手続きは自分でできる?
相続放棄を初めてする場合、さまざまな不安がある方は多いのではないでしょうか?
「期間制限もあるし、手続きでミスはできない」
「こういう場合はできるの?」
「申述書には何を書けばいいの?」
…など、さまざまな不安をお持ちの方に、手続きの流れや注意点を解説していきます。
まとめ
相続放棄は、マイナスの資産がプラスの資産を明らかに上回る場合や、心情的に「どうしても相続に関わりたくない…」と思う場合に適した方法です。
上記のようなメリットとデメリットを踏まえた上で「本当に相続放棄する方法が正しいのか? 他に方法はないのか?」と、専門家に相談してみるのも一つの方法です。
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